熱損失係数から何がわかるか


通常、仕様基準で基準値をクリアしない場合、断熱材を厚くしたり、断熱材の種類を変えたりすることを考えます。しかし、熱損失係数で考えてみると、違う考え方が可能になります。
例えば、窓面積を少なくするとか、住宅の気密性をよくして換気による熱損失を少なくするとか、熱交換型の換気システムを導入するとかなど、いろいろな角度から断熱性能を検討することができます。
住宅全体の断熱性能
熱損失係数は、住宅全体の断熱性能を判断することができます。
「熱貫流率(K値)・熱抵抗値(R値)との違いにも記していますが、熱貫流率などは断熱仕様でほぼ性能が決まってしまいますが、熱損失係数の場合は、面積や換気なども考慮でき、表面積や窓面積率などの影響も考慮できますので、同じ断熱仕様でも住宅の間取りなどによって、断熱性能が大きく異なる場合があります。
そのため、熱損失係数ではより実際に近い住宅の断熱性能を判断することができます。
熱貫流率・熱抵抗値
熱損失係数を計算するときに、計算課程として各部位の熱抵抗値・熱貫流率を計算します。
通常熱損失係数を計算する場合には、熱貫流率の基準値を意識する必要はありませんが、熱損失係数の基準値をクリアできない場合には、部位別の熱貫流率の基準と比較することで、どの部位が弱いのかを判断することができます。
熱損失の割合
住宅の熱損失の割合は、高断熱高気密住宅の場合、おおよそ外壁から3割、窓・ドアから3割、換気から3割、その他の部位から1割と、一般的にはいわれています。実際は、工法、住宅に使用している断熱材、窓の面積、住宅の気密性能などにより、熱損失の割合は住宅によって大きく異なります。熱損失係数を計算する課程で、熱損失量を計算しますが、各部位の熱損失量から住宅の熱損失の割合を求めることができます。住宅の熱損失の割合を把握することで、どの部位を断熱強化すればより効果的かを判断することができます。
計算例
熱損失の割合を円グラフにしたものが下記のものです。
このグラフは、熱損失係数で4地域の平成11年省エネ基準をクリアしている住宅です。仕様基準もすべてクリアしています。
このグラフを見ておわかりのように、窓やドアなど開口部からの熱損失の割合が非常に大きいことがわかります。この住宅は仕様基準をクリアしているため、窓の断熱性能が特に低いというわけではありません。
この住宅では、この状態で断熱材を厚くしていっても、なかなか効果が上がらないことが予想されます。この住宅で断熱性能を上げるためには、開口部の断熱性能を上げる、または不要な窓がないかを検討する、などが効果的ではないでしょうか。
このグラフは、熱損失係数で1地域の平成11年省エネ基準をクリアしている住宅です。
1地域の基準をクリアするような高気密住宅の場合には、外壁や窓などからの熱損失は少なくなります。そのため、換気による熱損失の割合が高くなってきます。一般的に1地域の基準をクリアするような高気密・高断熱住宅では、住宅全体の熱損失に対して、換気が3分の1をしめることになります。これは、室内を清浄な空気環境を保つために、換気は常に住宅の気積に対して0.5回/h以上の換気回数が必要で、住宅全体の熱損失量が少ない高断熱住宅ほど換気による熱損失の割合が大きくなります。換気による熱損失を抑えるためには、熱交換型の換気システムが必要になります。
気密性能による断熱性能への影響
住宅の断熱材をいくら厚くしても、気密性能が悪いスカスカの住宅では、室内を適温に保つことはできません。特に高断熱高気密住宅では、断熱材や窓などからの熱損失が少ないため、換気による熱損失の割合が大きくなってきています。なお、ここでいう「換気」は、熱損失に影響を与えるということを考えるため、計画的に行う換気だけではなく、「漏気」も含めます。
計算例
住宅種類 換気回数 熱損失係数
従来型の住宅 1回/h 3.04W/(m2K)
高気密住宅 0.5回/h 2.61W/(m2K)
この二つの住宅は、換気回数を変えて計算しているだけで、その他の条件はすべて同じです。住宅内の空気環境を正常に保つためには、最低でも0.5回/hの換気回数が必要といわれているため、高気密住宅でも換気回数は0.5回/hで計算しています。低気密住宅の場合、内外温度差や風などの影響を受けやすく、換気量がかなり大きくなる場合も考えられますが、ここでは換気回数が1回/hとして計算しています。熱損失係数の計算結果を見てもわかるとおり、住宅を高気密化するだけで、熱損失係数の計算結果が大きく変わることがわかります。4地域の平成11年省エネ基準の基準値が2.7W(m2K)ですから、断熱仕様を変更しなくても省エネ基準をクリアすることができ、住宅を高気密化するだけで大きな省エネ効果が得られることがわかります。
窓面積の影響
日本では、一般的に開放的な住宅が好まれるため、住宅の窓面積は比較的大きめです。窓は日射を住宅内に取り入れるため、日中は室温を上げる側に作用します。日射によって室温を上げるということは、冬は暖房エネルギーを小さくすることができますが、夏は逆に冷房エネルギーを大きくすることになります。また、窓は断熱材と比較すると、断熱性能が非常に低いため、窓面積が大きいと熱損失が大きくなります。このように窓は熱的に考えるとプラスにもマイナスにも作用しますので、住宅を設計する場合には窓の影響を十分検討することが重要です。
熱損失係数では、日射の影響を加味することはできませんが、窓面積による断熱性能の違いを判断することができます。熱損失係数の基準値をクリアできない場合、断熱材や窓の断熱性を高くすることも重要ですが、不要な窓をなくしたり、大きな窓を適当な大きさの窓にするなどの処置は効果的です。
住宅の表面の影響
住宅からの熱損失は、住宅外皮の表面積が大きくなるほど、熱損失も大きくなります。つまり住宅としてはできるだけ立方体に近い形の方が、同じ断熱仕様でもより省エネルギーな住宅になります。例えば、細長い住宅や、L字型、コの字型の住宅は、表面積が大きくなるため熱損失も大きくなり、省エネには不利に働きます。
熱損失係数では、面積を考慮することができますので、住宅の形や間取りによって、断熱仕様が十分なのかを判断することができます。
工法の比較
住宅は様々な工法で建てられますが、その工法によっても断熱性能は異なってきます。
在来木造工法・枠組壁工法・その他の工法
在来木造工法と枠組壁工法で内断熱の場合には、外壁などの柱の構成が異なるため、断熱材を貫通する木材熱橋の割合が異なります。そのため、同じ断熱材で同じ厚さでも熱損失係数が異なる場合があります。
内断熱と外断熱
内断熱の場合には、断熱材を貫通する柱などがあるため、それが木材熱橋となり、そこからの熱損失が大きくなります。外断熱は、断熱材を貫通する部位がなければ、熱橋が生じないため内断熱よりも薄い断熱材(または熱伝導率が大きい断熱材)でも同じ効果を得ることができます。熱損失係数を計算することで、内断熱時と外断熱時の断熱材の厚さや種類の違いを確認することができます。
基礎断熱と床断熱
基礎断熱と床断熱の場合、断熱材の種類や厚さなどによっては、どちらが断熱性能がよいということはいえません。熱損失係数を計算することで、どのような仕様が断熱性能が高いかを判断することができます。
一般的な木造住宅では熱容量があまりありませんが、基礎断熱の場合、床下の土が蓄熱層となるため、住宅内の温度を一定に保ちやすく、設備容量や暖冷房負荷を小さくできるという利点があります。


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熱損失係数の特徴 熱貫流率・熱抵抗値との違い

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